ショッピングセンター(SC)で働きませんか

2023/03/09 更新 新静岡セノバ「トライ! はたらく時間プロジェクト」1年レポート

慢性的な人手不足が続くSC業界において、テナント毎に柔軟な営業時間設定を可能にする「フレックス制」の導入など、新たな取組みに着手した「新静岡セノバ」。本ページでは導入から1年を経過した「トライ!はたらく時間プロジェクト」の取組みについて、その経緯や経過についてご紹介する。

 

※新静岡セノバとは
新静岡セノバ(以下、セノバ)は静岡鉄道の新静岡駅に直結するショッピングセンターである。

前身の新静岡センターの老朽化に伴い、2011年にセノバとして開業し、以来「地域の圧倒的No.1商業施設の地位確立」を目指し、市街地活性化の中心的役割を担ってきた。
繊研新聞社が主催する「テナントが選ぶディベロッパー大賞」において、ES賞を複数回受賞するなど、
テナントや協力会社との一体感や課題解決に向けたコミュニケーションが根付く施設運営のあり方は、これまでも注目を集めてきた。
そんなセノバが2021年5月よりES革新にさらに踏み込むプロジェクト「トライ!はたらく時間プロジェクト」を立ち上げた。
※本ページは2022年10月27日に当協会の理事会で行われた静鉄プロパティマネジメント㈱ 川井敏行会長(人材確保対策特別委員会 委員長)による講演会をベースに作成した。

 

<講演レポート>

【トライ!はたらく時間プロジェクトとは】

「トライ!はたらく時間プロジェクト」は、特定ゾーンの営業時間短縮テナント毎に営業時間や休暇を設定できる

下記の4つの施策からスタートした。

_営業時間にフレックス制を導入

__10時~11時、19時~20時をフレックスタイムとし、開店・閉店時刻をテナント各店で設定できる。

_食物販ゾーンの営業時間短縮

__従来21時としていた閉店時間を20時とする。

_フードコートの営業時間短縮

__従来10時としていた開店時間を11時とする。

_店舗毎に設定できる特別休暇制度の導入(パワーチャージ休暇)

__全館休業日に加え 、福利厚生を主たる目的とした休暇を年間で最大2日取得できる。

 

なぜこのような制度を検討し、実施するに至ったのか。

 

【当時の実態を示す2つのデータ】

各ショップの慢性的な人手不足は全国的な課題となっており、セノバもその例外ではなかった。

ここに当時の状況を示す2つのデータがある。

(1)従業員IDカードの発行状況

館に出入りする従業員毎に発行しているIDカードを分析したところ、約40%が1年間に入れ替わっていたという。

このデータが指し示すのは「従業員の定着率の低さ」であり、

言い換えれば、SCが長期間働き続ける場所として選ばれていないということでもあった。

 

(2)お客様の買上時間

世間では時差出勤が奨励され、夜間の外出を控える動きも進む中で、

もともと限定的であった開店直後と 19 時以降の売上比率はさらに低下傾向にあった。

しかし、現場は従来と変わらぬ営業時間を継続。

やがて公共交通機関が最終便を早めるようになると、遅番シフトの従業員の帰宅にも弊害が出始めた。

 

結果、店長や中心的なスタッフへの過度な負荷が浮き彫りとなり、こうした現場の疲弊を直視した早急な対応策が必要となった。

 

 

【対話と決断による意思決定】

まずは疲弊する現場に対する特効薬として検討されたのが、『特別休暇制度』であった。
そんな折、㈱アダストリアより営業時間のフレックス検討の申し入れがあった。

2020年8月のことである。

 

当時、社内での意見は分かれたという。

 “SCの一律的な運営がテナント企業の自由度を奪い、非効率を生み出していないか?”

 “一体運営してこそ SC。売上低下やお客様の混乱につながるのではないか?”

 

いくつもの議論を重ね、経営陣は決断した。

 “いつもそうやって決断を避け、手を打つことをしてこなかった”

 “手探りでもいいから、セノバからまずやってみよう!”

こうしてプロジェクトは実施に向けて動き出した。

 

主要出店者との意見交換を経て、2020年10 月に導入を決定。

店長や本部への説明に着手し、事前のアンケートでは、

営業時間短縮やフレックス導入について過半数から賛同を得ることができた。

以降、運用ルールや導入スケジュール等を固めて必要な周知を行い、

意思決定からわずか7か月後、2021年5月に各施策の実現にこぎ着けた。

 

 

【営業時間フレックス制の実施状況】

実際の運用は、マネジメントオフィスや他店舗との情報共有や連携のため、

・フレックス制導入を希望するテナントは、3か月前に営業時間変更届を提出する。

・導入店舗状況は毎月の店長会資料等で共有する。

という仕組みで行っている。

また、一律の営業時間短縮を行った食物販やフードコートとは異なり、フレックス制は導入状況がフロアやゾーンによって異なるため、

店頭では、防犯ネットや残置灯、お客さまへのお知らせ看板の設置を行って対応している。

 

気になる売上の動向であるが 、導入店舗の売上実績は業種別平均を上回る数値で推移しているという。

営業時間を短くしたことで体力的負担軽減がなされたことはもちろん、

従業員が揃う時間帯が増え、よりお買い上げに繋がる接客体制や売場作りに取り組むことができ、

また、営業時間変更をきっかけにお客さまとのコミュニケーションも以前より濃くなっているという。

 

手探りのスタートではあったが、これまで大きな混乱や苦情を招くこともなく、

館内に営業していないお店が混在する運営スタイルは徐々に浸透してきており、

当初17店舗で始めた導入店舗数は、現在28店舗にまで増えている。(22 年 12 月時点)

 

 

【パワーチャージ休暇の実施状況】

全館休業日に加え、テナント独自の休業日を設定できるパワーチャージ休暇も、徐々に取得が進んでいる。

マネジメントオフィスが定めた平日のなかから取得が可能で、休業日はフレックス導入店舗と同様に防犯ネットや残置灯を設置する。

留意しているのは、あくまで「パワーチャージ」を目的として利用いただくこと。

出社はもちろん、他店へのヘルプも NGとし、しっかり休んでまた店頭に戻ってきてもらえるよう呼び掛けている。

導入以降、12店舗・23日間の取得(22年12月時点)があり、大きな混乱なく運用されている。

 

 

【1年経過アンケートにみる成果と課題】

導入1年のタイミングでアンケートを実施し、様々な声が集まっている。

 

(導入店)「フレックス制を導入して良かった」という回答は95%

• シフトが組みやすくなった。

• スタッフの体力的、精神的な負担軽減につながっている。

• 人員が揃う時間が増えたので教育や方針説明に時間がさける。

 

(非導入店)「周辺店舗がフレックスになったことによる悪影響を感じる」という回答は30%

• 客数が減少した気がする
• 周辺が暗くなり営業していないと勘違いされるお客様がいるようだ
• 自店への回遊客が減った
• 隣が閉まっていることで自店に入店客が流れてくる

 

(非導入店)「今後フレックス制を活用したい」という回答は8%

• 売上減の可能性がある
• 本部から許可がおりない

 

上記の通りまだ賛否両論あるが、アンケートの回答収集でコミュニケーションが終わることはない

反対意見や非参加企業の抱えている課題や不安に耳を傾け、対話を継続することが非常に重要だという。

ES改善を意図した制度ではあるが、テナント企業の方針や事情は様々

その選択や判断も尊重されるべきであり、課題や不安の解消のためにセノバも一緒に考える。

一定の成果は着実にみられるものの、好意的な意見もあれば、否定的な意見もある。

セノバはその全てに受け止め、改善を続けていく。

 

 

【ESはQoLへ】

セノバは ES 面を評価されることが多いが、特別なことをしている意識はないという。
ただし、日常の向き合い方本気度については手を抜かずに取り組み、多

様な施策を具体化してきた。

今後は、働くスタッフのサステナビリティの維持・向上にあたって

「ESレベル向上」「QOL レベルの向上」へと深化させ、

仕事も仕事以外の時間も包含した“ライフ(人生)”を意識した考え方を取り入れ、

施策を検討・実施していくという。

 

加えて、「ディベロッパーとテナントの新たな関係性」についても言及する。
これまでのディベロッパーとテナントの関係性は「家賃と売上」で語られることが多かった。
しかし、それ以前の人手不足や現場の疲弊を直視しないといけない状況が差し迫っている。
従業員の QoL を高めていくことをデベ・テナント共有の課題として取り組むことで、

双方の新たな関係性についても模索していく。

 

 

おわりに

最後に川井氏はこう締めくくる。

ありがたいことに当プロジェクトに注目頂いたり、賛同いただく機会が増えてきた。

しかし、まだまだこの制度は「完璧」ではない。現場の声に耳を傾けながら絶えず改善を続けていく。

反対意見も出る。「それでもやる!」という運営側の強い意志と経営層のリーダーシップが不可欠になる。

そして完璧であることよりも重要なのは、まずスタッフの疲弊を直視して具体的な手を打つことです。

ぜひ業界全体で一緒に考えていければと思う。

 

(おわり)

 

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