ショッピングセンター(以下、SC)における人手不足が深刻な状況となってきているなか、(一社)日本ショッピングセンター協会では、2015年度よりSCの人材確保について取り組みを進めている。当協会の調査研究委員会では人材確保に向けた情報提供の一環として、2015年度より「人材確保に関する定量調査」を実施。本稿では2017年度に実施した調査結果を抜粋して紹介する。調査期間:2018年1~3月有効回答数:ディベロッパー148社256SC、回答率46・3%/テナント88社、回答率26・9%。
非正規社員は3年以内に約8割が離職
ディベロッパーにテナント従業員数の充足度について聞いたところ、「充足していない/やや充足していない」と回答した企業の割合が71・9%を占め、多くのSCでテナント従業員が不足している(図表1)。一方で、テナントに採用の困難度を聞いたところ、正規社員、非正規社員(注)ともに96%を超える企業が「非常に困難である/やや困難である」と感じている。とくに非正規社員については、61・6%のテナントが「非常に困難である」と回答しており、正規社員より20%以上高い結果となった(図表2)。
次に、テナント従業員の入社3年以内の離職率は、正規社員が47・1%であったが、非正規社員は79・0%と、約8割が3年以内に離職している(図表3)。
具体的な離職理由は、正規社員、非正規社員ともに「職場の人間関係」が最も多かった。しかし、離職理由における「職場の人間関係」が占める割合は正社員が55・7%だったのに対し、非正規社員は71・6%と高く、非正規社員が職場に定着するうえで「職場の人間関係」が正社員以上に重要であることがわかった。
また「結婚」「出産・育児」「労働条件が合わない」など、ライフイベントや労働条件のミスマッチも正規社員、非正規社員ともに上位になった(図表4)。
営業時間短縮と休業日数増加の動きも
テナント企業に従業員の就業意欲向上のために取り組んでいる施策を聞いたところ、「正規社員への登用」が83・0%で最も多く、次いで「会社が期待している人材像の明確化」「社員の専門性等を考慮した人材配置」といった人事考課に関するものが多かった。
離職理由で上位となったライフイベントや労働条件のミスマッチと関連する「労働条件の改善」に取り組んでいる企業は56・8%、「雇用スタイルの多様化」は52・3%と、それぞれ約半数に留まった(図表5)。
一方、ディベロッパーに営業時間について聞いたところ、一部のSCで営業時間の短縮が進んでいることがわかった。2015年4月以降に営業時間を変更したSCは37SC(17・1%)。そのうち営業時間を短縮したSCは27SC(12・4%)であり、飲食業の営業時間を短縮したSCが15SCと最も多かった(図表6)。
また、2018年度以降営業時間変更を予定しているSCも28SC(13・2%)あり、うち24SC(11・3%)が短縮を予定している(図表7)。
SCの休業日数は、2014年度に無休のSCの割合は35・8%であったが、2018年度(予定)には27・9%まで減少(図表8)。元日を休業するSCは51・2%となっている(図表9)。
人材確保・ES向上に向けた取り組み
今回の調査では、ディベロッパーにテナント従業員の定着やES向上に向けて取り組んでいる施策についてもアンケート(自由回答)を行った。そこに寄せられた回答として「従業員用休憩室および後方設備の改装・充実」「従業員駐車場・駐輪場の設置」などの施設の整備、「従業員割引・従業員特典の導入」「懇親会・スポーツイベント・旅行など各種レクリエーションの実施」「報奨金制度」などの福利厚生の充実が挙げられた。
また、多くのSCで人材育成に資するさまざまな教育研修を行っており、「入館時研修」「接客研修」「CS研修」「リーダー(店長)研修」など定番の研修のほか、最近は「インバウンド研修・語学研修」「SNS研修」が増えている。
また、「タブレット申請導入による届出制度の効率化」「売上伝票読取機導入による閉店から退館までの時間短縮」「両替機の増設(2台増設と繁忙期の利用時間の延長)」など、業務効率化や営業時間外の作業時間短縮により、テナント従業員の帰宅時間を早める動きも見られる。
全体を通じて、人材確保やES向上に向けた取り組みは拡大傾向にあり、営業時間短縮や休業日を増やすSCも増加していることがわかった。同時に、テナント従業員の不足が引き続き厳しい現実も判明し、今後は、「人材確保・ES向上施策の強化」「施策実施のスピード感」の2つが求められている。(注)非正規社員とは、「雇用期間に定めのある」社員を指す。具体的には、「臨時社員」「契約社員」「嘱託社員」「パート・アルバイト」とし、「派遣社員」は含まない。